「保育園と幼稚園」その3

「ね、お母さん!一緒に子育てを楽しみましょう!」つづき

中島章裕(明照保育園 園長)

5.お子さんの入園は、親御さんの入園!

今年も入園式には、きれいに着飾った、お母さんやお父さん,子どもたちがいっぱいおみえになりました。園の門の正面に車を止めて、交通のジャマになったり、子どもが出したおもちゃをそのままほったらかしにしてしまう親御さんも多くいます。自分の子どもしか目に入っていない親御さんも多いようです。ここ何年か、そのような親御さんの割合が多くなってはいますが、私は全然心配はしていません。

この前卒園した子たちの親御さんも、お子さんが入園した時はそうでした。でも、そんなことは今では少しもありません。最後のお遊戯会では、違う学年の子たちにも声援を送ってくれました。先生が片づけ忘れた遊具をそっと元の場所に置いてくれる人もいました。

卒園式に、いつも思うことがあります。それは、入園式の時よりお母さん方がきれいになっていると言うことです。別に化粧の仕方が上手くなったとか、単なる勘違いでもありません。入園式が入っている3年、6年前の「げんきっ子ビデオ」(ふだんの生活をビデオに撮り学年別に年3回無料ダビングをしています)を見ても確かです。きれいになっているのです。表情が良くなっているのです。きっと子どもと共に経験したこの何年かが、お母さん方を人間的に成長させ、それが表情にまであふれていると思うのです。このような、親御さんと子どもたちの成長を間近に見ていけるのが保育者の最大の喜びです。

6.保育園でのある出来事

しかし、保育園に入れればすべてが上手くいくとは断言できません。先にも述べたような「子ども中心という名の放任保育」や「子どものためと思いこんだ、いきすぎたしつけ」など、保育園の中にもいろんな問題を抱えています。

参考にはならないと思いますが、当園で過去にあったことを書きます。乳児さんのあるクラスで気になるクラスがありました。そのクラスの担任の先生は、はじめてクラスのチーフになった先生でした。乳児クラスなので何人かの先生で受け持ちます。(その時は3人の先生でした。)4月当初は、まだ園に慣れない子が多く泣いてしまうのも無理ありませんが、5月になっても、まだ泣いてくる子がそのクラスには何人かいました。また、そのクラスの前を通ると、子どもたちが例年と比べるとおとなしいし、先生達の表情も硬く感じられました。他の二人の先生は、1年目の先生と臨時の先生なので慣れないせいかなと思っていたのですが、ある時、そのクラスに用事があって行きました。ちょうどチーフの先生が休みだったのですが、私が見たものは、いつもより、のびのび働いている先生と、ほのぼのとした表情の子どもたちでした。そのころ、お母さん方の間でこんな事が噂になっているのを聞きました。

「○○組のチーフの先生が怖くて子どもが園に行きたがらないのよ。ひどい叱り方をしているようだわ。」何人かの気安く話せるお母さんに聞いてみたら、確かにそういう話が出ているということでした。その時、以前から、そのチーフの先生が「私が叱り役にならねば」と言っていたことが頭に浮かびました。はじめてのチーフという役に気負いすぎたのでしょうか?とにかく一度話をしようと決心しました。5時過ぎになってチーフの先生が一人になったところで部屋を訪ねました。そこには、チーちゃんを膝に乗せて耳元で一生懸命にお話を読んでいる先生がいました。チーちゃんは難聴で、まだはっきり言葉が言えません。お母さんも仕事が忙しくお迎えも遅れがちです。夕日が射し込む部屋の中をお話の声だけが響いていました。その姿を見たとき、私は何も言うことが出来ませんでした。ザリガニ・ミミズ・メダカなどいろいろな生き物が入ったカゴがありました。カゴには、先生の子どもの名前が書いてあります。子どもたちと散歩に行った時など、子どもたちが興味を持った物をチーフの先生が捕まえてきては、みんなで育てています。私は、お話を読む声を聞きながら部屋の前を通り過ぎてしまいました。その後は、だんだんとクラスの雰囲気も良くなってきましたが、今でもその時にその先生に「子どもやお母さん達がどのように感じていたか」を話しておいた方が良かったのではないだろうかと思うこともあります。

実際に子どもを保育園に預けている親御さんの中にも園に対する不信感を抱いている方もいると思います。これは、保育園側の説明不足だったり、また実際に問題がある場合も確かにありますが、できるかぎり、園や先生と保護者が、お互いに理解し合うように努力していかなければと思います。

7.信頼関係が一番大切!

先生と子どもの関係でもそうですが、園と保護者との間も、信頼しあえることが一番大切だからです。しかし、信頼関係はなにもせずに出来るものではありません。お互いが尊重しあい、自分の責任を全うしながら築いていくものです。せっかく、子どもという大切な架け橋で出会えた園と親御さんなのですから、お互いに協力して「子育て」という最もやりがいのある大事業を成し遂げるお手伝いが出来ればと願っています。

一人でも多くのお母さんが「子どもを産んでよかった」と思えるように、一人でも多くの子どもたちが「生まれてきて良かった」と思えるように、そうした努力をすることが私たち保育者の勤めだと思っています。

保育園と幼稚園という制度的な違いはありますが、今は、その保育内容はほとんど差がありません。(もちろん各園によっての差はあります。)早期教育で有名な幼稚園以上に早期教育に力を入れている保育園もありますし、通園バスのある保育園もたくさんあります。幼稚園の中にも、お勉強的なことはせずに、本来の子どもの遊びや養護を大切にしているところもあります。いろいろな子どもがいるように、そして一人の子どもにもいろいろな面があるように、保育園・幼稚園という名だけではひとくくりにできない時代になっています。今回は、保育園の立場から書かせていただきましたが、しかし、今こそ、幼稚園、保育園にかかわらず、園、先生、親御さん、そして地域の方が一緒になって「子どもの成長には何が必要か?」を考えていかなければならない時だと思います。

最後に一言!「園に来て一緒に子育てを楽しみましょうよ!子どもと一緒に、もう一度人生を楽しみましょう!」 中島章裕( 明照保育園 園長)


中島先生には、「保育園の良いところを書いて下さい」とお願いしましたのに、保育園での、トラブルも書いて下さいました。中島先生の真摯で、あたたかい人柄が感じられます。中島先生、ありがとうございました。


幼稚園、保育園を選ばれるときは、あまり細かなサービスの違いにこだわることなく、その園全体の雰囲気を大切にしていただきたいと思います。また、子どもにとって一番良い環境というのは、お母さんにとっても、良い環境ということです。あまり、保育内容にこだわって、お母さんに無理がかかるようでは、かえってお子さんにイライラをぶつけてしまう結果にもなりかねません。中島先生のおっしゃるように、肩の力を抜いて、子育てしましょう。

P.S. 中島先生「明照保育園のホームページ」も、ぜひご覧になってください。

URL http://www.tcp-ip.or.jp/~meisyou/index.htm

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