「保育園と幼稚園」その2

「ね、お母さん!一緒に子育てを楽しみましょう!」つづき

中島章裕(明照保育園 園長)

3.それは親の思い込みではありませんか?

どの親御さんも子どものことを考えていると思いますが、それがそのまま子どもの成長にとって良いことばかりとは限りません。親の思い込みや押しつけが子ども自身を苦しめることも少なくありません。また、最近では、幼児虐待の問題もあります。私は、「子どもにとっては、いろんな価値観を持った人と接する」というのが、なにより大事なような気がします。「親は子どものことには責任を持つ、子どものことは親が一番分かっている」。これは、もっともなことだとは思いますが、ともすると、自分だけの思い込みや価値観を子どもに押しつけてしまいがちです。

これは、当園でのできごとですが、自他共に認める、子育てにに熱意を持っているお母さんがいました。このお母さんは、「子どもの個性を尊重するとか、子どものため」が口癖でした。子どもにとって良いこともたくさんしていましたが、個性を伸ばすためには園服を着せるべきではないと言うのも持論でした。当園では、無理に園服を着なくても良いのですが、それでもほとんどの子が着てきます。このお母さんの熱意と裏腹に、その子はいつも自信なさそうにしているのでした。クラス写真を撮るとき、その子の表情が曇っているのを先生が見つけました。 「園服、着たいの」 「うん」。この一言で、園服を着ている写真と園服なしの写真を撮ることにしました。 もちろん、その子のお母さんには、園服を着ていない写真を渡しました。ところが、園服を着ている写真には、今まで見たこともないような、その子の笑顔が映っていました。今でもそのうれしそうな表情が忘れられません。

子どもは、本当にいろいろな面を持っていて、その成長過程もバラバラです。ですから、子どもの周りにはいろいろな価値観を持っている人がいて、その、いろいろな環境の中で今、自分が一番必要としているところに寄り添える、そんな世界が子どもの周りにあればいいな、と思っています。立派な親だけに育てられるより、多少癖があろうが、その子にとって甘えになろうが、とにかくいろいろな人と接しながら育っていくのが、その子の成長にとっては良いことだと思っています。「天気が良く、適度な雨が降り良い栄養ばかり」より、「時には、害虫がいたり、干ばつがあったり」する方が結局、いろんな可能性を持った子に育つと思っています。(もちろん、子どもの心に傷を作ってしまうようなものは別ですが。)確かに、一人でいるのとは違い、集団生活では、悲しいことや悔しいことなども経験するでしょう。しかし、これは人間の成長に絶対に必要なものではないでしょうか!

4.最近よくマスメディアで「新一年生問題」というのを聞きます。

ここ何年間の新一年生が、おかしいという問題です。授業中に廊下で遊んだり、友達に迷惑をかけても自分を主張するといったように集団生活にまるで適応できない子が増えているそうです。知り合いの小学校の先生にも聞いてみましたが、確かにその傾向はあるようです。原因の一つとしては、家庭環境の変化があげられていますが、保育園、幼稚園の保育の質の変化も指摘されています。保育指針や幼稚園教育要領の大幅な改定によって、より「子ども中心の保育」などを打ち出したのはよいのですが、それを実践する先生たちが「子ども中心の保育、子どもに寄り添う保育、個性を大切に」というような、きれいな言葉を誤解して、結局、放任になっているように思われます。この放任こそが、現在の保育の中でもっとも考えていかなければならない問題です。集団生活と一人一人の個性。一見すると相反するように思えますが、普段の保育の中で、この二つの育ちを保証することは、一斉保育であれ、自由保育であれ出来ることです。

保育園に勤めていると様々な家庭を見ることが出来ます。でも、まわりから見ている印象と子どもの育ちは一致しません。きっと私たちが見えないところでいろんな要素が関わっていると思うのです。周りからは、大変良くできた家族に見えても、そのことが子どもにも良い環境とは断言できません。こんな事を言うと反発される方もいると思いますが、親の愛情が一番なのはもちろんなのですが、それだけでは子どもは育ちません。また、専業主婦の間に子育てノイローゼや「社会から隔絶されているのよね」症候群が広まっているとも思えます。ですから、私は、お母さんたちに、こう言いたいのです。「園に来て一緒に子育てを楽しみましょうよ!子どもと一緒に、もう一度人生を楽しみましょうよ!」と。

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